次世代半導体の国産化を目指すラピダス(小池淳義社長、東京都千代田区)。回路線幅2㌨㍍級(ナノは10億分の1)の先端半導体、さらには2㌨以下の量産も視野に入れる。汎用品ではなく、特注品分野に絞った事業モデルを描く同社。補助金など国の全面支援を受けるとはいえ、技術課題をクリアし、十分な顧客を獲得していけるか、成功へのハードルは高い。
ラピダスがセイコーエプソン千歳事業所(北海道千歳市)に設ける「後工程」の研究開発拠点。約9千平方㍍のクリーンルームを持つこの拠点は「ラピダス・チップレット・ソリューションズ(RCS)」と名付けられた。工事を進め、来年4月には装置の搬入が始まる予定だ。RCSでは、複数の半導体を集積させる技術の確立を目指す。生産効率を高め、半導体の高性能化にもつなげる。
先端半導体は、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転など、エッジ(端末)側でのAI(人工知能)処理やクラウドコンピューティングなどに不可欠とみる。「処理スピードとともに低消費電力が重要」(小池社長)となるからだ。
同社が特注品分野へ注力する背景には、台湾のTSMCといった大手ファウンドリー(半導体製造受託)を相手に汎用品の市場を獲得するのは難しい事情もある。小池社長は以前から、先端の論理用製品について「汎用品の10倍ほどの単価になる」との見立てを示している。
3日にあった記者会見でも小池社長は「簡単ではない」と技術面の課題を認めた上で「計画通りに進んでおり、2027年の量産開始へ1日の遅れもない」と強調し「専用半導体にすることで、電力消費を従来の10分の1にできる」と特注品の意義をアピールした。
生産の自動化技術にも取り組むという。小池社長は「ロボットやAIを駆使し、後工程を含めて完全な自動化を目指す。特に搬送、供給システムにも取り組む」と語った。ラピダスはこれまで、米IBMや独フラウンホーファー研究機構などと連携し、技術開発や生産技術の習得を周到に進めてきた。折井靖光専務執行役員は「海外で進めていた研究を国内に集約し、一気に立ち上げることができる」と自信を見せた。
後工程の技術開発では、国内勢に強みのある素材や装置メーカーとの連携が不可欠になる。小池社長は、北海道にこうした企業が集積し、地域にコンソーシアム(企業連合)ができることを期待する。実際、関連企業の進出や進出の引き合いは多い。しかし「現状ではサービス拠点や物流関連などが中心で、生産拠点まで検討する動きはまだこれから。事業の進ちょくを見ている企業もありそうだ」(関係者)との声もある。
投資がかさむ半導体メーカーにとって安定した顧客の存在は不可欠だ。ラピダスは、AIや自動運転関連などの企業が多い米シリコンバレーに拠点を設け、顧客開拓を進めている。小池社長は「約40社と交渉している。いずれ発表できるようになるだろう」と語った。実際、車載半導体を手掛ける海外ファブレスメーカーの一社は「ラピダスにも関心がある。台湾有事を考えれば生産拠点は分散している方がいい」と話す。
世界の半導体製造の大半は台湾、韓国に集中し、半導体供給はリスクにさらされている。ラピダスの事業には、米政府と歩調を合わせるようにIBMが協力し、2㌨㍍級を手掛ける人材の教育や試作の環境構築を後押ししている。日本政府の実質的な国策会社として始動したラピダスへの期待が高まる。
もっとも、特注品市場で、かつ2㌨㍍級といった先端品へのニーズが、特に国内企業からどの程度、集まるのかは不透明だ。技術は実現できても事業面で苦労する例は多い。そうした轍(てつ)を踏まず、国産半導体のエコシステム(生態系)を日本に築けるか、今後が注目される。
(編集委員・山本 晃一)