吉田光伸(よしだ・みつのぶ)常務執行役員

 ミスミグループ本社は、機械加工部品の発注と製造パートナーをマッチングするEC(電子商取引)サイトを立ち上げた。国内では初めての取り組みで、利用者はワンストップで部品の調達が可能になる。〝製造業のアマゾン〟を目指す、この事業を率いる吉田光伸常務執行役員兼ID企業体社長に聞いた。

 ―オンライン機械部品調達サービス「メビー」とは

 「高度成長期、バブル前後までの日本では、労働力が豊富にあり、1人当たりの就業時間も長かった。その掛け算で総労働時間が確保できた。しかし、人口減少が進み、物流の『2024年問題』をはじめ、人手不足や働き方改革による残業時間削減などが進んでいる。労働生産性を改革することが企業にとっての生存条件になっている」

 「こうした中で、設計→調達→製造→販売といった流れを考えると、設計ではCAD(コンピューター支援設計)利用、製造では自動化やロボット活用、販売ではEコマースといったデジタル化が進んでいる。だが、一番ネックになっているのは生産用部品の調達だ。せっかく図面をCADで書いても紙ベースで見積もりをする慣行が根強い。ある調査では、大半の企業がまだファクスを利用している。われわれの試算では、仮に一般的な装置(部品点数1500点前後)を1台調達しようとすると、年間1千時間がかかり、これを38万社で掛けると、年間2兆円以上の経済ロスになる」

 ―そうしたことに対応するのがメビーか

 「こうした業務に割かれる時間を節減すれば、よりクリエイティブな業務に時間を充てることができる。調達領域をデジタル化し、カタログで対応できなかった部品も提供する。ここでは企業が設計データを入力すれば、価格や納期などをAI(人工知能)が算出し、対応する。高精度な加工も画面上ででき、加工できない設計では警告も出る。従来は、加工の可否や見積もりの回答に時間がかかったが、その時間が短縮できる。2D図面にも対応したり、AIで図面情報を簡単に検索できるといったサービスも展開している」

 「AI検索では、図面情報をAIが自動登録して検索する。図面データ共有機能もある。利用者からは『入力が便利になった』『欲しい図面を探しやすい』といった声を頂いている」

 ―今回のサービス概要は

 「当面、加工側には当社が〝目利き〟した100社前後が参加し、今後も追加していきたい。海外展開も検討する。また並び順の要素としては、見積もり回答の速さ、納期などさまざまな要件を追加していきたい」

 「今回は、加工部品の提供サービスだが、顧客に聞くと、欲しいサービスがほかにも多数ある。『設計を依頼したい』『検査を依頼したい』、また『組み立てを依頼したい』といったニーズもある。そうした役務(サービス)全般に広げていくことができる」

 「これらを通じ、〝製造業のアマゾン〟としてプラットフォームを担っていきたい。同様のサービスを手掛けている企業はほとんどないので、オンリーワンでもある」

 ―利用した顧客の声は

 「ベータ版を利用している先からは、たとえば、部品手配の手間から解放されて設計や評価に没頭したい中で『加工品をほぼ100%調達できる』といった声を頂いている。また、開発サイクルを短縮したいと考え、試作要望に合わせパートナーを使い分けているという利用者もある」

 ―自動車や部品業界からはどうか

 「多数、利用いただいている。例えば、過去の図面がある『リピート品』などが多いという特徴があり、3D化するには大変だが、2Dのままで発注できるといった利点を生かして頂いている。特に電気自動車など開発サイクルが早く、また新しい販路を開拓したい企業にとっても活用していただきやすい」

(編集委員・山本 晃一)