中古の電気自動車(EV)輸出が底堅く推移している。昨年8月に最大の仕向け地だったロシア向けの輸出が禁じられたが、その後も年間2万台前後のペースで中古EVの輸出が続く。高価な車載電池やモーターが載るEVは〝重要鉱物の塊〟とも言える。中古EVの残存価値を適正に割り出したり、廃車時に有価物として流通させ、国内でリサイクルを進めるなど、こうした重要鉱物の国内循環に向けた対策が求められる。
財務省の統計によると、2024年1~8月の中古EV輸出は1万2542台だった。前年同期より12.3%減ったが、昨年は全体の過半数(約55%)を占めていたロシア向けがゼロになったことを踏まえると健闘しているとも言える。
ロシアに代わって最大の仕向け地に浮上したのが韓国だ。24年1~8月の輸出台数は2千台。前年同期のゼロから一気に増えた。中古車輸出に詳しい自動車流通市場研究所の中尾聡理事長は「規制後も韓国など第三国経由でロシアに中古車が流れている」と迂回輸出の可能性を指摘する。韓国のほか、モンゴルやキプロス、ジョージア、アラブ首長国連邦などもロシアへの経由地として輸出が増加したもようだ。一般に寒冷地との相性が悪いEVだが「ロシアは原油産出国にも関わらず、ガソリン価格が高いため、EVの需要がある」(中尾氏)という。
ロシアのほか、トリニダード・トバゴなど一部の新興国でも中古EVの需要が増えている。ニュージーランド向けは、二酸化炭素(CO2)排出が少ない車両(中古車含む)に対する補助金を昨年暮れに打ち切った影響もあって半減したが、それでも中古EVに対する根強い需要がある。日本総合研究所(谷崎勝教社長、東京都品川区)の籾山嵩シニアコンサルタントは「再生可能エネルギーの活用や環境政策が進んでいる国への輸出が多い傾向がある」と分析する。
日本製中古EVの輸出が底堅いのは、品質への信頼感や円安に加え、中古EVや電池の再利用に関する事業モデルが国内で十分に確立されていないためでもある。車載電池やモーターには、ニッケルやコバルトなどのレアメタル(希少金属)、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアース(希土類)を用いる。こうした重要鉱物は経済安全保障上のリスクが高く、国内でこうした資源を循環させる必要性が増している。
経済産業省は今年、データ連携基盤を使って輸出した電池材料のデータを追跡できる仕組みを整えた。6月に公表した「成長志向型の資源自律経済戦略」の中間とりまとめ案では「特に循環が必要な資源(レアメタルなど)に関し、資源法における制度的な措置が不十分である」とし、希少金属の回収や再利用に向けた法整備の必要性にも触れた。
こうした中、ホンダと三菱商事が立ち上げたオルタナ(福井盛一社長、東京都千代田区)は、電池と車両の所有権を分ける「車電分離型」で10月からEVをリース販売する。日産自動車は政府による「グリーンイノベーション基金」の枠組みで、特定の電極のみをリサイクルする技術を開発中だ。
日本自動車工業会(片山正則会長)も、業界として重要鉱物のエコシステム(生態系)を構築する方針だ。佐藤恒治副会長は「モビリティ産業が重要資源をしっかりとリサイクルの仕組みに載せていくことが大切だ」と話している。