長期目線でソリューション事業を目指す(中計を説明する南真介社長)

 いすゞ自動車が2030年までを見据えた経営戦略を策定した。従来、3年ごとだった中期経営計画は5月の業績発表時に公表する予定で、これとは別に今回、30年を見据えた7年間の経営計画を策定した。この背景には、いすゞが主力とする商用車を取り巻く環境が大きく、早く変化しているからだ。国内ではドライバー不足が深刻化、海外では中国やインドなどの商用車勢が存在感を高める。こうした環境変化に長期戦で臨む。

 今回の経営計画「いすゞトランスフォーメーション(IX)」では、30年に商用車メーカーから「商用車モビリティソリューションカンパニー」として生まれ変わるため、今から取り組むプロジェクトを具体的に示した。

 従来の3カ年計画は、地域ごとの環境規制や経済動向などを前提に取り組みを決めていた。しかし、国内では「2024年問題」が本格化し、世界的にはパワートレインの将来動向が読み切れないまま。こうしたニーズや技術の変化に対応するのには時間がかかる。「事業者がどんな問題に直面しているのかを考え、今から何をやったらできるのかを想定すると7年間の計画になった」と南真介社長は説明する。

 特にドライバー不足対策として開発を急ぐのが自動運転ソリューションだ。27年度に日本と北米で、都市間輸送のトラック・バスや、路線バスなど、走行経路が決まっている区間の「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)運用を目指す。無人運転ではないが、労働環境が大きく改善されるため「ドライバー不足対策として効果的」(南社長)と見る。

 実現に向け、いすゞは昨年12月、イスラエルの自動運転開発会社「フォーテリックス」に約120億円を出資したほか、今年3月には自動運転ソフトウエアを手がけるティアフォー(名古屋市中村区、加藤真平社長)に60億円を出資するなど、開発体制を急ピッチで整えている。レベル4を実装するにはLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)や高性能コンピューターなど車両コストもかさむ。このため、自動運転を活用した事業の検討組織を社内に新設する。将来的には数百人が働く大所帯になるという。

 自動車運送事業者のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)対応も支援する。交換式電池を活用する商用電気自動車(EV)やエネルギーマネジメント技術、電池リサイクルスキームなどの開発にも取り組む。電池パックやモジュール(複合部品)を内製化するなどして価格競争力も高め、30年代には商用EVの総所有コストをディーゼル車と同等にまで引き下げる考えだ。

 30年を見据えて地域戦略も策定した。「人口増に伴い商用車需要が拡大する可能性がある」として、特にアフリカに注目する。今後、生産拠点のある南アフリカ、ケニア、エジプトを軸に生産体制を拡充する。経済成長とともに増える商用車やピックアップトラックの需要を満たせる体制をいち早く整える。

 一方、戦略軸を30年までに延ばしたことで見直したプロジェクトもある。いすゞと子会社のUDトラックスの共通プラットフォームに、提携しているボルボの技術を採り入れた大型トラックだ。当初は25年の投入を計画したが、いすゞとUDの商用車の共通化や、電動車の開発を優先するため「優先順位が下がって(市場投入を)28年に先送りにした」(南社長)という。

 物流の省人化・効率化やカーボンニュートラル対応、成長市場の変化など、商用車メーカー各社は多くの課題と向き合う。いすゞは商用車の製造販売にとどまらず、長期的な視点に立ち、社会や事業者の課題解決につながる製品やサービスの提供に事業の軸を移して生き残りを目指す。地政学的リスクの高まり、母国市場を武器に世界へ打って出る中印勢、技術革新など、競争環境も様変わりする中、真の商用モビリティソリューションカンパニーへと脱皮することができるのか。

(編集委員 野元政宏)