整備学校を運営するホンダ学園(高倉記行理事長)が、自動車メーカーやサプライヤーへの人材供給に力を入れている。ここ5年間で約130人がホンダに就職。同期間の卒業生に占める割合も1割を超えた。電動化や自動運転など次世代技術への対応で、メーカーの開発職も人手不足感が強まっている。理系の大卒採用も競争が激しくなっており、自動車の専門知識を学んだ整備学校の学生にも注目が集まる。ホンダ学園では専門の育成コースを設け、ものづくり企業の要望に応えていく考え。整備士以外の進路も選べる点をアピールし、新入生の確保にも生かしていく方針だ。
同学園が手掛けるホンダテクニカルカレッジ関東(勝田啓輔校長、埼玉県ふじみ野市)では2022年度に、「開発・設計工学コース」を「研究開発学科」に昇格した。4年制で、85人の定員は学年全体の約3割を占める。最初の2年間で国家二級自動車整備士の資格取得を目指し、3年次以降は機械設計や材料力学、電子制御技術などを深く学習する。ホンダテクニカルカレッジ関西(五月女浩校長、大阪府大阪狭山市)にも、研究開発職を志望する学生向けのコースを置いている。
就職先にものづくり企業を選ぶ学生も目立っている。ホンダの系列ディーラーに進む卒業生は、両校合わせて約6割と依然としてメインとなっている。ただ、自動車メーカーやサプライヤーを選択する学生はかつてに比べて着実に増えており、ここ数年は2割程度となっている。八千代工業やジーテクト、日立アステモといったホンダと縁の深い部品メーカーに加え、日本製鉄や神戸製鋼所といった鉄鋼メーカーに進む学生もいる。
サプライヤーなどが整備学校の学生に目を付けているのは、車両の構造に対する理解の深さだ。大学から入社する社員の場合、自動車に詳しくない人材もおり、基礎的な知識から身に付ける必要がある。一方、ホンダ学園の卒業生ならば、一通り整備の技術やノウハウを学んでいる。特に、研究開発職を視野に入れた課程に進んだ学生は、より高度な知識を取り入れやすい環境にある。このため、同学園の卒業生は「電子制御技術にも明るく、まさに即戦力」(中嶋歩常務理事)との評価を得ているという。
ホンダ学園では増えているものづくり企業から求人に応えるため、教育体制の充実にも力を入れる。教員にホンダで車両開発の最前線に携わった社員を迎え入れている。また、学生の卒業研究も「電動化を強く意識したものにしている」(同)ことで、今後の自動車産業の電気自動車(EV)シフトにも対応できる人材づくりも重視している。
理工系の大学生や大学院生の就職活動が売り手市場となり、メーカーやサプライヤーの採用競争は当面、激しさを増すとみられる。整備学校が送り出す人材へのニーズも高まるのは間違いない。このため、整備学校にとっても研究開発職への就職にも強いことは今後、学生を集める上で大きなアピール材料になりそうだ。
しかし、自動車整備の現場でも、慢性的な人手不足が問題になっている。少子高齢化が進み、そもそも整備学校に進学する学生が減少傾向にある。学生の総数が限られる中で、研究開発職と整備士の双方の需要を満たしていくには課題も多い。
(諸岡 俊彦)