日本の充電インフラ整備が「第2ラウンド」に入った。設置数を追う戦略から、高出力や複数口の充電器を優先整備し、電力需給の調整などに備え通信機能も加えていく。世界各国で整備が本格化する充電網だが、特に公共的な性格を帯びることから持続可能性が問われる。電気自動車(EV)時代のサービスステーション(SS)のあり方を巡って、模索が続く。

 政府は8月末、2030年に向けた充電器インフラの新戦略を公表した。従来、掲げていた充電器の整備目標「15万基」を充電口ベースに変え「30万口」へと倍増させた。充電器の総出力という新目標も設定、現在の約10倍に当たる400万㌔㍗を目指すことにした。

 高速道路上に設置する急速充電器は1口当たりの出力を原則90㌔㍗以上と、現在の平均の2倍以上とする。4口以上設置する場合、最低でも一口以上は150㌔㍗とするよう求める。交通が集中するサービスエリアなどでの〝充電渋滞〟を防ぐ狙いだ。「道の駅」や自動車ディーラーなどもそれぞれ設置目標を示した。

 こうしてEVユーザーの「利便性」を追求する一方、「充電事業の自立化」「社会全体の負担減」を掲げたことも新戦略の特徴だ。

 充電事業の自立化に向けてはまず、充電量に応じた従量課金制度を推進する。現在は時間制が主流だ。充電量は外気温や電池の温度、車両特性などに左右され「30分で8割」という目安が形骸化している。このため、従量課金で利用者の納得感を高める。料金体系が乱立して利用者を戸惑わせないよう、メーカーや団体で料金制度づくりに入る。

 また、充電器に国際標準プロトコル(通信手順)「OCPP」を搭載することを補助要件に加える。満空情報や機能更新、故障の遠隔対応で充電網の使い勝手を高める。日本は、電源構成を再生可能エネルギー重視へシフトする途上にある。このため、電力需給のひっ迫時にEVへの充電に利用制限をかけるなどして予期せぬ停電を回避する狙いもある。

 海外では、主に自動車メーカーが中心となって充電インフラの整備を進めている。米テスラの「スーパー・チャージャー」は米国だけで1万8千基以上あり、フォルクスワーゲン(VW)やBMWグループなどが後を追う。日本勢では、ホンダがゼネラル・モーターズ(GM)などと組んで急速充電網を手がける会社を年内に立ち上げる。

 日本では、電力会社主導のeモビリティパワー(eMP、四ツ柳尚子社長、東京都港区)といった充電専業者や、エネオスなどのエネルギー企業が充電事業を手がける。完成車メーカーも系列販売網に充電器を置く。

 日本の場合、普通充電器を含めた公共用の設置数は3万基弱。このうち急速充電器は約9千基だ。米国(2・8万基)や韓国(2・1万基)、ドイツ(1・3万基)などに見劣りするが、いずれの国もEVの保有比率は1~4%に過ぎず、0・6%の日本を含め、充電網の整備はこれからが正念場と言える。

 安価な料金と使い勝手の良さ、充電網への再投資に備えた一定の利益など、さまざまな要件を満たす〝EV時代のSS〟のあり方を、官民一体で模索する動きが広がる。

(村田 浩子)