車載HUD市場は今後も伸びる
デクセリアルズの拡散マイクロレンズアレイ
AZPを用いた比較試験(複屈折により偏光が乱れると白い光漏れが起きる)

 化学業界で車載ヘッドアップディスプレー(HUD)向けの部材開発が活発だ。日亜化学工業(小川裕義社長、徳島県阿南市)は拡張現実(AR)型HDUへの搭載をにらんだ光源の開発に着手した。デクセリアルズは拡散フィルムが初めてHUDの光源ユニット用に採用された。いずれも表示映像を鮮明にする技術だ。HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の重要性とともにHUD搭載車が世界で増えるとの予想もある。各社は受注獲得にしのぎを削る。

 日亜化学工業は、プロジェクター用に量産しているレーザーダイオード(LD)「QuaLas(クオラス)」を用いるHUD用光源を開発中だ。虚像を遠方に映すAR型HUDへの採用を目指している。AR型HUDの光源には高出力が求められるが、開発品は一つのパッケージに複数のLDチップを載せることで、赤、緑、青の光出力をそれぞれ従来品比で約4倍に高められるという。高い色純度や輝度、色再現範囲の拡大を実現し、HUDメーカーなどに売り込む。

 旭化成もAR型HUDへの提供も視野に、低複屈折特性を持つ透明樹脂材「AZP」を提案している。すでにヘッドマウントディスプレー(HMD)向けでは受注を得ており、川崎製造所千葉工場(千葉県袖ケ浦市)で年内に生産を始める計画だ。AZPは低複屈折性と高い耐光性を持ちつつ、設計自由度が高く小型・軽量化にもつながる。環境ソリューション事業本部MMA事業部AZP事業推進室の宇野潤室長は「AZPを発表した直後からHUD向けの問い合わせは多い。例えば、『(AZPを利用して)光の偏光をそろえたい』といったニーズがある」と期待する。

 デクセリアルズは、拡散フィルム「拡散マイクロレンズアレイ」が光源ユニット用としてHUDメーカーに初採用された。光源ユニット内のレンズとレンズの間に組み込むもので、一般的なコーティングタイプの拡散板やガラスを利用した拡散板と比べて光の損失を抑え、高い輝度と投影ムラの低減を実現した。 

 積水化学工業は、HUDの〝二重像〟を防止するガラス用高機能中間膜「くさび形中間膜」の改良に力を入れる。二重像はフロントガラスの多重反射で起き、HUDの機能を広げる上で課題とされてきた。「多くの情報を広い範囲に正確に表示したい」という顧客の声に応えようと「くさび」の角度制御や膜の厚みの制御などにより改良を重ね、受注拡大につなげる。

 市場調査会社グローバルインフォメーションによると、HUDの世界市場は2022年から27年の間に11億2487万㌦(約1620億円)増え、期間中の年平均成長率は4・28%の見通し。同社は「HUDにおけるホログラフィックの出現と、AR型HUDの進歩が市場の大きな需要につながる」とする。より鮮明に、よりカラフルに―化学メーカー各社の開発は続きそうだ。