制御を工夫してMT車にもアイサイトを搭載する

 スバルは20日、「BRZ」の手動変速機(MT)車に運転支援システム「アイサイト」を初搭載すると発表した。今秋発売する改良モデルで採用する。2025年12月が期限の継続生産車への衝突被害軽減ブレーキ(AEB)装着義務化に対応する。MTスポーツカーのAEB対応では、マツダやトヨタ自動車が対応を進めるほか、ダイハツ工業も「コペン」で対応する方針を示している。一方、ホンダは22年に「S660」の生産を終了。AEBの義務化だけが理由ではないが「NSX」の生産も終えた。義務化まで残り2年半に迫る中、各社の判断が分かれている。

 現行のBRZは21年7月に発売した。自動変速機(AT)車にはアイサイトを採用していたが、MT車には搭載していなかった。AEBの作動時にエンジンストール(エンスト)が発生したり、ブレーキが重くなったりして交差点などで二次衝突などを起こす可能性を懸念していたためだ。

 ただ、BRZの販売台数に占めるMT比率は6割とATを凌いでおり、顧客からAEBやアダプティブクルーズコントロール(ACC)の設定を求める声が寄せられていた。アイサイトを採用し、こうしたユーザーニーズに応えるとともに法規に対応する。

 アイサイトの採用で最もこだわったのはエンスト関連の制御だ。AEBが作動した場合、ギアやクラッチの状態によってはエンストするが、同時にエンジンの電子制御装置(ECU)が停止するため、ブレーキの圧力も抜けてしまうという。

 このため、スバルは横滑り防止装置(VDC)のECUでホイールシリンダーに液圧をかけてつつ、ピストンバルブを閉じることで液圧を一時的に保持する。これにより、AEB作動から完全停止まで制御する。

 ACCもMT車ならではの制御を取り入れた。作動速度域を全車速ではなく、時速25キロメートル以上と6速でもエンストしない範囲に設定。クラッチペダルを踏んでいる間は一時的に加速を抑制することでエンジン回転の上昇を防ぐ。クラッチをつなぐと瞬時に加速を再開し、違和感なくACCを作動させるようにした。AEBを含め、AT車と比べると、機能や作動条件に制限があるものの、独自の制御でAT車に近いアイサイトの安全性能を実現した。

 MT車のAEB対応は、マツダが「ロードスター」などの幅広い車種で進めているほか、トヨタも「GRスープラ」などに搭載済みだ。ただ、スポーツカーの販売規模では法規対応コストが見合わず、生産を打ち切るモデルも少なくない。

 スバルもMT車を減らしており、国内向けはBRZのみになっていた。しかし、ブランド力の維持・向上のためにBRZのMT車を残す必要があると判断した。

 MT用アイサイトの制御技術を開発したことを契機に、今後は他車種についてのMT車復活も検討するという。