車内空間の利用形態が変わることで製品価値のあり方も変わる

 クルマの車内が大きく変わろうとしている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaS(サービスとしてのモビリティ)といった自動車産業の変化に伴って車内が移動するだけの空間から、車内で過ごすための空間へと変貌を遂げようとしている。インストルメントパネル(インパネ)やディスプレー、車内電装品、ステアリング、シートといった内装部品を手がける部品メーカーも対応を迫られ、この変化をビジネスチャンスとして捉える動きも目立つ。部品メーカー各社の次世代コックピットを模索する動きを追った。

 「シート、インテリア、エレクトロニクスを手がける企業はグローバルで見ても当社しかない。このユニークな特徴を生かしてビジネスを拡大していきたい」―。次世代コックピット開発に対するフォルシアクラリオン・エレクトロニクス(FCE)の岩井崇尚取締役技術開発担当の鼻息は荒い。同社は「コックピット・オブ・ザ・フューチャー(COF)」という開発コンセプトを掲げ、次世代コックピットに関するシート、インテリア、エレクトロニクスについてグローバルで製品開発を進める。

 COF活動における究極の目標は、自動車メーカーから車内設計を一括受注することにある。「現実的には難しいが、当社にしかできない」とし、社内にある3つのビジネスユニットが連携することで付加価値を加えた次世代コックピットで受注獲得を狙う。

 CASEやMaaSを「千載一遇のチャンス」と捉える日本のサプライヤーも少なくない。パナソニックオートモーティブ社の永易正吏社長は「インフォテインメントの領域で生きてきた。コックピット領域に一番の強みがある」と、事業拡大に自信を示す。

 この自信を裏付けるのが車室内の利用形態の変化だ。例えば自動運転車の車内は、単に車を操縦するだけの場所から、リビングルームやオフィスなどに求められる機能へ変化する。こうした車内環境の変化と進化が、家電や住宅など、生活領域で事業を展開するパナソニックにとっては「暮らしの空間と車をつなげられることが強み」(永易社長)になる。

 次世代コックピットへの移行は、既存の部品メーカーにとって脅威にもなる。インパネやステアリングなどを手がける日本プラストの中島康雅先行開発部次長は「(CASEやMaaSの進展に伴い)新しいプレーヤーが自動車部品市場に参入することで、当社の付加価値領域が侵される」と懸念を示す。

 部品メーカーは、既存の付加価値領域を守りつつ、次世代コックピットに相応しい新たな付加価値をいかに生み出すのか。パイオニアの髙島直人取締役兼常務執行役員は「違うアプローチで考えていかなければならない」と指摘する。

 同社が想定する製品の一つが市販カーナビ市場で手がける「Wi―Fiルーター」だ。自動車メーカーも車両にDCM(データコミュニケーションモジュール)を搭載し、車のコネクテッド化を推進するが、その主眼はエンターテインメントよりも安心安全の領域が中心だ。髙島取締役は新しい付加価値を創出するための方向性として「市販品では尖ったことをやる。どちらかというと自動車メーカーがすぐにできないようなことをやりたい」と思考を巡らせる。

 自動車メーカーが次のモデルチェンジのタイミングでしか実現できないことを、市販品で先取りしていくことが「市販の生きる道」(髙島取締役)で、得意のセグメントをリードしていく。

 これまで部品メーカーは製品売り切り型のビジネスモデルを展開してきた。電動車両や自動運転、コネクテッドカーの普及が進む現在、既存の経営資源だけで新しい付加価値を創出することは難しい。パイオニアは新しい付加価値を生み出すために不足するリソースを補完するため、独コンチネンタル、自動車向け音声認識技術で強みを持つ米セレンスと提携した。髙島取締役は「今後、車室は特殊な環境になる。顧客に価値を認めてもらうため(コンチネンタル、セレンスとの)協業でどんな価値が生み出せるかを日々模索している」と話す。

 車両技術が複雑化、高度化する中で、自動車メーカーとの関係強化も一段と重要になっている。FCEの岩井取締役は「先行開発から一緒にやっておく必要があり、RFQ(見積依頼書)をもらった段階でビジネスはもう決まっている」と、共同開発の重要性を説く。パナソニックオートモーティブ社の永易社長も「いかに早い段階から共創活動ができるかがポイント。一緒にシステムを作り込むことができる顧客を絞り込んでやっていく」という。

 一方、自動車の進化をソフトウエアがけん引する「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」を実現する動きが加速する中、次世代コックピットを構成する製品価値のあり方は大きく変わる見込み。キーワードはOTA(オーバー・ジ・エア)やCDC(コックピットドメインコントローラ)、統合ECUなど。自動運転を見据えて進む次世代コックピット開発は、製品単体にとどまらないソリューション提案が重要になってくる。