コロナ禍の影響で、旅客自動車運送業界は昨年に引き続き、乗客の激減によって貸し切りバスの運行中止や高速路線バスの大幅減便、タクシーの稼働車両数削減などが行われています。そのため、コロナ前に盛んに言われてきた「運転手不足」が解消し、逆に解雇や自宅待機など雇用不安が広がっています。
2020年度の都内法人タクシー運転者数(運転者証交付者数、東京タクシーセンター調べ)は5万3788人で、前年度比で約4500人減りました。ここ数年は年間数百人から1千人台で減っていましたので、20年度は異常な減少数です。主に「売り上げの落ち込み」「感染恐怖による離職」が要因と見られます。
コロナ後の需要回復と運転手不足の再燃も予測されますが、収束の見通しが立たないことから、タクシーと貸し切りバスを中心に事業継続を断念する事業者も出ています。
一般路線バスを見ると、コロナ前は、人口流入で乗客が増えている都市部と、少子高齢化が深刻で路線網維持が困難になりつつあった地方で明暗が分かれていました。しかし、好調だった都市部もコロナで乗客減に陥りました。東京バス協会の山口哲生会長(東急バス社長)は2月の記者会見で「人件費が売上高の3分の2を占め、固定費比率が高い。1割の乗客の減少で損益分岐点を割り込んでしまうという事業構造になる」と述べ、抜本的な構造改革を進める必要性を強調しています。
一方で、業界ではコロナ後の需要回復を見込んだ動きも出ています。厳しい現状でも採用の手を緩めない事業者も見られます。技術面では、大型バス車両を使った自動運転、ITで鉄道や航空などさまざまな交通手段を1つのサービスとしてつなげる「MaaS(マース)」(サービスとしてのモビリティ)の実験が各地で行われています。その他、ユニバーサルデザイン車両(フルフラットバス、UDタクシー)や連節バス車両といった最新車両の導入が進んでいます。