図1 植物細胞における原形質流動 植物の細胞内では、細胞骨格たんぱく質であるアクチン繊維が張り巡らされている。細胞小器官に結合した植物ミオシンXIが、方向性を持ってアクチン繊維上を移動することにより、原形質流動と呼ばれる活発な細胞内輸送が発生している。(JST報道資料より)
図2 高速型ミオシンXIによるシロイヌナズナの大型化 原形質流動の速度を決めているミオシンXIの速度を、人工的に高速化したところ植物(シロイヌナズナ)のサイズが大型化することが明らかになった(JST報道資料より)

 早稲田大学の段中瑞研究員と富永基樹准教授らの研究グループは、ディーゼルエンジン(DE)のバイオ燃料(バイオディーゼル)用原料植物の成長促進に成功したと発表した。有力な原料植物とされるカメリナ(アブラナ科)で、人工的に高速化を施した「モーターたんぱく質」を異種発現させて植物体の成長を促進させるとともに、種子数を野生株の約2倍に増加させることを実現した。単位面積当たりの原料生産の増強につながる成果とする。化石燃料に代わるクリーンな燃料として活用拡大が期待されるバイオディーゼルの生産効率化への貢献が注目される。

 千葉大学大学院理学研究院の伊藤光二教授と共同で進めていた科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業」の研究テーマ。約6年半をかけて成長促進に成功した。

 カメリアは、種子から産出される油脂がバイオディーゼルの原料として利用されるほか、ジェット機の燃料に利用された実績がある。さらに、乾燥した貧弱な土地でも育つ非食物系の植物のため、バイオディーゼルの原料として栽培を効率化する手法の確立が注目されてきた。

 成長促進では、まず植物の細胞内でモーターたんぱく質(アデノシン三リン酸の加水分解によって生じたエネルギーを運動に変換するたんぱく質)のミオシンXIが、アクチン繊維上を運動することにより、原形質流動と呼ばれる活発な輸送が行われてることがベースになった(図1)。原形質流動はあらゆる植物で発生している現象だ。

 富永准教授らの研究グループは、これまでにミオシンXIが「エンジンである『モーター領域』を回転させ、あたかも人が歩くように運動するタイプ」のモーターたんぱく質であることを明らかにした。その上で、カメリナのモデル植物(遺伝子などの研究ベースになる植物)である「シロイヌナズナ」のミオシンXIのモーター領域を、生物界〝最速〟とされる緑色藻類「シャジクモ」のミオシンXIのモーター領域と遺伝子工学的に置換して「高速型ミオシンXI」を開発した。すでにその高速型ミオシンXIをシロイヌナズナで発現させ、植物の大型化や成長促進に成功していた(図2)。

 今回の研究では、これらの成果を生かして〝シャジクモ-シロイヌナズナ〟の「高速型キメラミオシンXI遺伝子」をカメリナで異種発現させた。その結果、高速型ミオシンXIによってカメリナの背丈、葉の成長と早期花成が促されることと、種子が約2倍に増加することが明らかになった。

 今後は、高速型ミオシンXIと、油脂合成や脂肪酸組成改変に関連する遺伝子を同時発現させることによって、より良質な〝カメリナオイル〟の増産を目指す。さらに、高速型ミオシンXIによる植物の成長促進が、モデル植物であるシロイヌナズナ以外でも有効なことが示されたため、トウモロコシやイネ、サトウキビ、ヤトロファなどの資源植物の増産にも活用し、CO2排出の削減やバイオマス生産といった応用展開が期待できるという。