日産自動車の西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)が6月25日の定時株主総会で、ルノーとの資本を含むアライアンスの見直しに言及したことが波紋を広げそうだ。西川社長は、アライアンスの「将来像について(ルノーの)スナール会長と議論していきたい」と述べたが、ルノーが要望している経営統合を模索するのか、日産がルノーへの出資比率を引き上げて日産としての独立性を確保するのか、見通せない。今後もアライアンスの動向から目が離せない状況が続きそうだ。
「非常に重大な節目を迎えた」―西川社長が株主総会で何度も繰り返した言葉だ。昨年11月にカルロス・ゴーン元会長による不正事件が発覚してから日産もアライアンスも混乱続きだったが、同日の株主総会で、ガバナンスを強化するための指名委員会等設置会社への移行が決まり、新しい経営体制が発足。西川社長はこれを機に、アライアンスの関係見直しを議論していく方針を示した。
昨年11月にゴーン事件が発覚してからこに至るまでは困難の連続だった。ルノーの筆頭株主であるフランス政府が、ゴーン元会長の退場後、アライアンスの主導権を確保しようと介入してきたことが主因だ。最大の危機となったのが、ルノーのジャンドミニク・スナール会長が日産の株主総会で上程していた指名委員会等設置会社への移行について「棄権」する意向を表明したことだ。定款の変更には議決権行使の3分の2の承認が必要で、日産に43.7%出資するルノーが議案を棄権した場合、指名委員会等設置会社へ移行できなくなる。
ゴーンの逮捕後、ルノーが新しい会長の派遣を日産に要請したことから両社の関係はギクシャクしていた。しかし、2019年3月にルノー、日産、三菱自動車の3社連合がWin-Winの精神で合意に基づいて運営していく「アライアンスオペレーティングボード」の設置し、アライアンスは一旦落ち着きを見せた。しかし、4月のアライアンス会議の前に、スナール会長が日産の西川社長に対して再び経営統合に向けた交渉を要請。西川社長はガバナンス強化と経営改革が最優先事項で「経営統合を話し合う時期ではない」と、これを拒否したことで両社の間で再び不信感が広がった。
そして日産の株主総会まで1カ月を切り、株主総会招集通知書を送付した後の状況で、ルノーが日産の議案を棄権することを表明したことで、両社の緊張感は一気に高まった。最終的に日産がルノーの要望を受け入れて、ルノーのティエリー・ボロレCEOを監査委員会の委員に選任することでルノーは議案に賛成することを表明、事態は収拾した。しかし、日産には忸怩たる思いが残った。
スナール会長は株主総会で棄権の表明について「(日産を)攻撃しようと考えていない。日産からはルノーへ2人の取締役、委員会の委員がいる。平等、公平性を求めただけ」と述べ、スナール会長とともに、ルノーのボロレCEOが日産の委員会の委員になることを求めただけとの見解を示した。
一方で、ルノーの要望を受け入れた日産の西川社長は、ボロレCEOが委員になっても「ルノーから日産に対する経営への関与が強まることはないし、絶対にやらせない」と強く主張。スナール会長、ボロレCEOは日産の取締役だが、日産とルノーの資本の見直しなど、利益相反となる場合「取締役会の議論から外れてもらうことで(双方が)理解している」と説明する。
その上で、西川社長は北米事業の収益率悪化で経営改革を進めるのと「並行して(アライアンスのあり方について)議論する」方針に転換し。Win-Winの精神に基づいて、お互いのメリットについて検討する考えを示した。「経営統合がいいと思っていない。(アライアンスにとって)将来何が1番いいかを話し合いたい」としている。
スナール会長は「(ルノーと日産の)経営統合の話は何ケ月も前から出ている。これは日産の取締役会で決めるもので、私が決めることではない」と述べ、経営統合に固執しているわけではないとの考えを示す。
西川社長が明らかにした資本を含むアライアンスの見直しが、経営統合を目指すのか、対等の関係となるため、日産がルノーへの出資比率を引き上げるのかなど、その方向性は見えない。ただ、西川社長は、アライアンスの見直しを経営改革と並行して進める理由として「議論を先送りすると憶測をよんで(グループに)動揺が広がる懸念がある」と説明。しかし、議論の方向が見えないことから憶測が広がるのは必至の情勢だ。



















