泉英男(いずみ・ひでお)社長CEO

 ―2023年6月に社長就任後、これまでを振り返って

 「第2次中期経営計画の途中での交代で、当社の事業ポートフォリオも踊り場に来ている厳しい環境での就任となった。気負いはなかったが、当社を『大きく変革させなければならない』という思いだった」

 「想像以上に環境も大きく変わり、決算でも大きな減損を発表した。当社の過去の経緯から来ているものだが、なおさら短期間で事業の方向性を変革していかなければならいと日々、感じている」

 ―中計の中止という大きな決断をした

 「当社は車載事業が非常に大きな割合を占める中で、27年に向けてアルプス電気とアルパインが統合したデジタルキャビンソリューションの製品軸で約40%の確保ができている。間違いなくポジティブな部分だ。あとは収益性が大きく悪化した部分をどれだけ短期間に改善できるか。さらなる成長に向けた軌道は見えているので『膿み出し』を短期間で行う。このため、現行の中計を追いかけるよりも膿み出しに注力し、その後は走れば成長軌道に乗れる状態にする必要があると判断した」

 ―社員の声を経営戦略に生かすため現場に足しげく通っている

 「社員と密接にコミュニケーションを取り、その声を経営に響かせたい。現在まで25拠点を回って社員から課題を吸い上げ、経営戦略に生かしていこうと取り組んでいる。回数を重ねるごとに社員からの質問も増えている。ストレートな要求も出てきた。『変化していきたい』という強い思いは社員も抱いており、その声を聞くと、当社にはまだまだ変革する余地があることを改めて認識する」

 ―中国事業では拠点間や合弁会社との連携を強化する

 「拠点間での協業によって中国ならではの製品開発に注力する。その準備を来年度から本格的に進める。中国のEV(電気自動車)はかなり技術的に先を走っており、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)もグローバルと比較して相当、進んでいる」

 「当社はSDV向け製品の量産化を目的にニューソフト(東軟集団)と合弁でニューソフトリーチ(東軟睿馳汽車技術)を14年に立ち上げた。今までは領域を分け、グローバルOEM(自動車メーカー)は当社が担当し、中国のOEMはニューソフトリーチが担当している。ニューソフトリーチとの関係をより強固にすることを昨年、協議した。今年から協業分野を増やし、相互的な関係をより強化する」

 ―北米では労務費上昇の対策に注力する

 「メキシコに北米の生産拠点がある。メキシコの労務費上昇率は非常に高いが、昨年度から海外顧客もコスト転嫁に対して理解して頂けている。また、対策として最適な生産能力を維持しながらEMS(製造受託企業)などのパートナーも活用し、全体のコスト上昇を抑制したい」

 ―昨年、R&D新棟がオープンするなど「仙台開発センター(古川)」を拡張している。狙いは

 「まず『東北地方を活性化させたい』という思いがある。センターを開所して以来、今までにはないくらい大学教授や生徒が訪問してくれており、人材の確保につなげたい。また、当社の開発センターに集結する(企業や大学などの)関係先も増やしたいと考えている」

 〈記者の目〉 中計の中止という大きな決断を下した泉社長。収益性の改善に集中して取り組み、早期の業績立て直しを図る。一方で、その後の成長については中国におけるSDV向け製品が一つのカギとなりそう。現地拠点やニューソフトリーチとの連携を生かした早期の製品開発を実現し、新たな収益の柱に育てていく。

(梅田 大希)