EVシフトを推進するホンダ(写真は上海モーターショーで公開したe:Nシリーズ)

 ホンダが電気自動車(EV)シフトに対応するため、系列サプライヤーの再編を本格化している。4日に連結子会社で燃料タンクを主力の一つとする八千代工業を完全子会社化した後、インドの自動車部品メーカーのグループ会社に売却すると発表した。ホンダは電動車向けモーターを手がける日立アステモの出資比率を引き上げて経営の主導権を握ることも決めている。2040年に内燃機関車から撤退し、新車販売をEVと燃料電池車(FCV)だけにする計画で、これに合わせて「ケイレツ(系列)」見直しに動く。サプライヤー側も電動車向け事業を強化するなど、生き残りを模索している。

 八千代は現在、ホンダが50・4%出資しており、燃料タンクやサンルーフ、自動車向け樹脂部品などを手がけている。ホンダはEVとFCVに経営資源を集中、EVには不要となる燃料タンクを主力とする八千代の重要度が相対的に低くなることから売却する。

 ホンダは八千代の株式公開買い付け(TOB)を今年10月ごろ実施して完全子会社化した後、マザーサングループのインドの自動車部品メーカーに株式の81%を売却する。残りの19%はホンダが保有する。八千代は樹脂部品に強いマザーサングループと連携することで、樹脂部品の販路を拡大するなどしてEVシフトに伴う燃料タンクの穴を埋める構え。

 ホンダは40年に新車販売のすべてをEVとFCVとする計画で、特に主力市場の一つである中国では35年に新車販売をすべてEVにするなど、EVシフトを加速する。これに伴ってホンダを主要納入先とする系列も見直す。

 日立製作所の自動車部品子会社だった日立オートモティブシステムズと、ホンダ系列のケーヒン、ショーワ、日信工業を経営統合したアステモは現在、日立が66・6%、ホンダが33・4%出資しているが、9月以降、ホンダ、日立それぞれが40%ずつ出資する株主構成に変更する。すでにホンダ前副社長の竹内弘平氏が7月1日付けアステモの社長に就任し、経営の主導権をホンダが握る。ホンダとしては、アステモが電動車のキーデバイスである駆動用モーター関連事業に強いため、連携を強化することにした。

 ホンダは昨年8月、自動車用キーセットなどを手がける完全子会社ホンダロック(現ミネベアアクセスソリューションズ)を、ミネベアミツミに売却した。自動車のキーセットが将来的にスマートフォンなどのデジタルキーに置き換わる可能性がある中、ホンダロックの事業を非自動車領域に拡大していくのが目的だ。

 ホンダは昨年9月、主要取引先のスタンレー電気と資本業務提携することで合意した。ホンダは50年にホンダの二輪・四輪車が関与する交通死亡事故ゼロを目指しており、これを実現するのに次世代ランプシステムが重要と判断、連携強化に動いている。

 EVシフトや自動運転などで自動車が大きく変わる中、ホンダはこれらの先進的な要素技術を確立するため、部品の調達先との関係を見直し、競争力の高い次世代車を開発する体制を整える。中国の車載用電池大手のCATL(寧徳時代新能源科技)に1%出資して包括提携を締結しているほか、EVや自動運転の性能を左右する高性能半導体を安定調達するため台湾のTSMC(台湾積体電路製造)と、戦略的協業を結ぶことで基本合意している。昨年9月には車載用電池のレアメタルを安定調達するため阪和興業とも提携した。GSユアサとはEV向け電池を製造する合弁工場を新設することを決めている。

 一方、ホンダ系サプライヤーもEVシフトへの危機感は強く、対応している。ホンダが売却を決めた八千代は、中国や北米、インドで需要が拡大しているサンルーフ事業を強化する。エイチワンは昨年10月、都筑製作所などと超小型EVを開発する技術研究組合を設立した。武蔵精密工業は、電動二輪車向け駆動ユニットを開発して、インドなどで事業展開を進める。

 部品点数が最大で半分に減るとされるEVが普及すると、部品メーカーの業績に大きな影響が及ぶ。EVシフトによって完成車メーカーを頂点とするピラミッド構造の系列は解体に向かう。