トレイトンとは商用車向け電動プラットフォームや電動化コンポーネントの一括企画を共同で推進する

 日野自動車が電動化の全方位戦略を展開している。今年3月、トヨタ自動車と次世代の環境対応技術である燃料電池システムを搭載する大型トラックを共同開発することで合意したのに続いて、2018年に包括業務提携を締結したトレイトン(旧フォルクスワーゲン・トラック&バス)と商用車向け電動プラットフォーム、電動化コンポーネントの一括企画を共同で推進することで合意した。中国のBYDと商用電気自動車(EV)分野で提携するなど、提携相手も拡大している。環境規制が強化される中、商用車の電動化を推進しなければ、生き残れないとの危機感がある。

 「ここ1~2年、さまざまなパートナーと検討してきた案件が具体的になってきた」(下義生社長CEO)―。日野がトヨタグループ以外も含めて他社との連携を強化する背景には、商用EVを迅速に市場投入するとともに、電動車両のキーデバイスである電池の安定調達やコスト低減を見据えているためだ。

 重量物を運ぶ商用車の電動化は、リチウムイオン電池などの二次電池を大量に搭載するため、輸送効率の低下や車両価格の上昇を招く。日野はトレイトンと小型から大型までの電動プラットフォームと電動化コンポーネントを共同で一括企画することで、電動車のプラットフォームやコンポーネントを共用し、コスト低減を図る。開発も両社が分担することで、リードタイムを短縮し、早期の市場投入につなげる。

 日野は「27~30年を境に商用電動車の普及が急速に進む」(下社長)と予想し、これに備えるため、25年度までに日本・北米・アジア市場に小型から大型までの幅広い電動商用車を展開する方針。そのカギとなるのがBYDとの提携だ。日野とBYDは商用EV分野で提携することで合意、21年には中国国内に商用EVを開発する新会社を設立する。

 日野がBYDとの提携を重視するのは、アジア新興市場向けの商用EVを開発するとともに、リチウムイオン電池や駆動用モーターなど、競争力の高い電動車のユニットを安定調達する狙いもある。

 乗用車のEVは欧州や中国で市場が急拡大していることもあって、電池の供給量が不足気味となっている。携帯電話用電池メーカーとして創業したBYDは、リチウムイオン電池メーカーとしても世界トップクラス。日野にとって、BYDとの電動車領域での提携は、将来の電池不足への備えとしても有効に働くとにらんでいる。BYDは電動車のユニットを外販する方針で、日野はこの分野での協業も検討する。

 日野は米国現地の複数の企業とも電動トラックで協業している。SEAエレクトリックの駆動用モーターを搭載した「クラス5」のトラックや、Xosトラックのバッテリー、電動ドライブシステムを搭載した「クラス8」のトラックを試作するなど、現地企業と連携して電動車開発を本格化している。これらについては22年には実証走行して24年には量産する計画だ。

 これ以外にも将来を見据えてトヨタと燃料電池大型トラックを共同開発している。さまざまな企業と提携してEVに限らず、燃料電池車、ハイブリッド車も含め全方位で電動化の取り組みを加速しているのは、将来に対する強い危機感があるからだ。

 日系商用車のライバル三菱ふそうトラック・バスは商用車世界トップのダイムラーグループの傘下。いすゞ自動車は世界2位のボルボ(トラック)グループと戦略的提携で合意、UDトラックスを買収する。日野と提携しているトレイトンは米国ナビスターに買収を提案しており、世界の商用車グループは巨額投資が必要な電動化や自動運転など、先進技術に対応するために巨大化している。

 さらに、新興の電動トラックメーカーの動向も無視できない。電動トラック専業のニコラモーターは、革新的なバッテリー技術を開発したと投資家に虚偽の説明していた疑惑が持たれているが、一時は「商用車業界のテスラ」として注目された。電動車両は内燃機関より構造が簡単で、電池技術も発展途上なだけに、今後、テスラのような新興企業が突然現れる可能性は小さくない。

 トヨタグループの商用車メーカーは日野1社だけで、グループ内で商用電動車分野でのシナジーは大きくは期待できない。ライバルの商用車メーカーが巨大グループとなって電動化を加速し、新興企業のEVトラックの参入も予想される。「電動化は最大限の優先度でやっていきたい」(下社長)という日野。トレイトンやBYDなど、トヨタグループ外の複数の企業と連携、幅広い環境対応技術に備えることによって、トレンドとなる環境技術や市場動向の変化に柔軟に対応して生き残ろうというしたたかな戦略が見え隠れする。

(編集委員 野元政宏)